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フィギュアスケートの最新情報や基礎知識などをブログに載せています。スケート業界では知られているものの、はっきりとは語られていないことやフィギュアスケートをする上で大切なことを考えていきます。

村主章枝選手の壮絶なる人生<後編>

<前編>からの続きです。

トリノ五輪後に引退しなかった理由

 当時はフィギュアスケートを職業にすることが難しい時代でした。2006年のトリノ五輪では、村主章枝(すぐりふみえ)選手は25才になっていました。このシーズンの全日本選手権2005で村主選手が優勝しました。2位は浅田真央選手、3位は荒川静香選手でした。そして、トリノ五輪2006では、華麗なイナバウアーを披露した荒川選手が優勝し、村主選手は4位入賞でした。私は彼女の演技をテレビを通して観ましたが、大きなミスなく滑り終えました。しかし、結果は4位。村主選手は「私には一体何が足りなかったのだろうか?」と疑問に駆られます。この時の疑問が負のスパイラルを呼びます。

 トリノ五輪で2位と3位の選手は優勝候補と言われていましたが、オリンピックでは失敗してしまいました。この時、村主選手は世間一般のフィギュア選手であれば引退する時期と思われていました。そして、その後からが本当の地獄の始まりでした。

次々に現れる若手の天才ライバルたち

 本当に多くの人から、「あの時(トリノ五輪の時期)に辞めておけば良かったのに。」と言われたそうです。また、そういう空気もひしひしと感じていたようです。これまではスポンサーに支えられて選手活動を続行できましたが、現役のピークを過ぎた彼女には厳しい現実が待ち受けていました。浅田真央選手、安藤美姫選手、次世代スケーターの台頭です。他にも村上佳菜子選手、鈴木明子選手、中野友加里選手など、次々と若手スケーターが現れます。この次世代の勢いにのまれていきます。

バンクーバー五輪以降

 2010年のバンクーバーオリンピックで日本代表から落選、その頃には村主選手は29才になっていました。トリノ五輪(2006年)以降、彼女の元を離れていく人は多かったようです。彼女が16才の頃に出会ったローリー・ニコル振付師や今までのコーチなどから、「この出来で辞めることは本当に不甲斐ない。」と周りから言われたことで現役を退く決断を彼女は躊躇(ちゅうちょ)してしまいました。終わるに終われない状況に突入することになります。スポンサーが撤退、ここから無収入生活がスタートします。大会の優勝賞金だけでは選手生活を継続できません。

 資金不足を乗り切ることができなかった村主選手。そして、父親の退職金、母親の貯金をスケートの活動費に充てます。彼らの生活を切り詰めて、とても苦しかったそうです。スケートを辞めるか辞めないかの口論が続く毎日でした。フィギュアスケートで結果を出すしか、彼女には方法がありませんでした。こうして現役生活を続けることで、当然お金もどんどんかさみます。遠征費を工面しながら彼女の母は絶叫しました…。

 村主選手は地方ブロック大会から出場し、2014年の東日本選手権で8位になり、全日本選手権2014の出場を逃しました。その後も現役続行に拘っていましたが、ローリー・ニコルから振り付けの仕事を依頼されます。日本では、現役選手が指導することや振り付けをすることができません。でも彼女は悩み、大きな決断に踏み切れませんでした。

身近な存在である妹からの一言

 「お姉さん、有終の美を飾って終われる選手なんて、ほんの一握りなんだよ。それ以外の選手たちは志半ばで辞めていく。」と、妹の村主千香(すぐりちか)選手は姉の章枝選手に言いました。その時点では志半ばかもしれないけれども、その思いがあるからこそ次に進んでいくことができます。章枝選手には輝かしく退いた数少ない選手たちだけしか見えていませんでした。

 その妹の一言でいろいろなアスリートを見渡した時に確かにそうなのかもしれないと、章枝選手は気付かされます。妹も章枝選手と同じく幼い頃から長い間、フィギュアスケートを続けていました。一緒に歩んできた妹の言葉が彼女の心に響きました。

 まだ競技を続けたい気持ちもあったようですが、ローリー・ニコルに出会ってから、振付師という仕事に魅了されていき、次のステージに移る準備ができました。村主章枝選手は6才から28年間、スケート人生を歩んできました。その競技生活に幕を下ろすことを決断しました。2014年の東日本選手権現役引退の試合となりました。

まとめ

 現役の引き際を考えさせられる内容だったと思います。引き際は自分では決められない、と彼女は語ります。あの8年(トリノ五輪以降の8年間)がなければ、お金の有難みを分からなかったと言います。現役にこだわり続けたことによる様々な経験が、現在の村主章枝先生の指導(インストラクター)の中で活きています。「引き際は運命で決まっている。」と、彼女はその言葉を残しました。

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