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フィギュアスケートの最新情報や基礎知識などをブログに載せています。スケート業界では知られているものの、はっきりとは語られていないことやフィギュアスケートをする上で大切なことを考えていきます。

羽生結弦とネイサン・チェンの差、北京五輪2022の裏側

 第二のネイサン・チェン選手が現れましたね。シニア2年目のイリア・マリニン選手!彼は4回転アクセル(4A)を初めて成功させた選手です。4回転アクセルに挑戦するきっかけは、羽生結弦選手から刺激を受けた、とマリニンが話していました。今シーズン、羽生選手は現役を引退し、ネイサンは現役引退を明言していませんが、今季は休養し試合には出場しない意向とのことです。鍵山は右足首の故障によりグランプリシリーズは欠場、全日本選手権2022に向けて調整しています。樋口も今春に負った右足の怪我により、今季は全競技を欠場することを発表しました。

 羽生が競技から退いた後、フィギュアスケート人気の雲行きが怪しくなってきました。現在の男子トップは宇野。そして、鍵山、佐藤。それから友野、三浦。女子トップは坂本。そして、樋口、復活した三原。それから松生、河辺、新スター島田、あと紀平。これからも新しい風を運んでくれるような選手が現れると良いですね。

 ネイサンは今秋から復学し、勉学に励むようです。彼はビックタイトルは全て得ていますから、最大の目標であったオリンピックも金メダルを獲得し、現在までに出場した大会で半分以上は優勝しています。たぶん6~7割は優勝でしょう。シニア2年目以降は出場した大会で金メダルを手にすることが普通のことのような当たり前であるかのような強さでしたね。次もネイサンが優勝するだろうと予想できるような選手でした。世界の壁は厚いですから、一時期は羽生に敗れることもありました。2018年の平昌五輪では、ショートプログラムの6分間練習前に羽生の背後で大きなあくびをしているネイサンの姿がありました。おそらく集中力が切れたのでしょう。そのSPではネイサンらしくない失敗をし、その後のFSで巻き返したものの、結果5位に。五輪初出場のネイサンと五輪出場経験のある羽生との差がありましたね。技術力だけを見ると、ネイサンの方が力があったのでしょうが、その他の演技・構成点や経験値(成熟度)など、技術以外の面では羽生が経験してきたことや培ってきたものが評価され、オリンピックで二連覇しました。そうなると、次は三連覇に期待がかかります。その間の4年間でネイサンは演技・構成点や経験値(成熟度)を得て、それに加えて、技術力もありますから、パワーアップして、オリンピックに戻ってきました。ネイサンが北京五輪2022で優勝するだろうという思いや審判員の雰囲気を感じました。出場する大会ではほぼ優勝、五輪のために休学し学業から離れ、フィギュアスケートの練習に専念します。休学した選手は他にもいましたし、ネイサンの五輪に対する強い思いを感じました。羽生とネイサンの違いの一つは技術面でしたね。ネイサンはアクセルを除く5種類の4回転ジャンプを跳ぶことができます。一方の羽生はアクセル、ルッツとフリップを除く3種類の4回転ジャンプで戦っていました。それでも、羽生は武器を多々所持していますから。カミラ・ワリエワのジャンプは他の選手とは違い洗練されていますよね。あのようなジャンプを羽生も持っています。審判員から高評価を得られるような加点が多く付くような洗練されたジャンプがあり、たとえ難しいジャンプが無くてもカバーできます。実際、羽生とネイサンのジャンプ一つ見ても、羽生の方が離氷から着氷までが美しいですからね。また体のバランスが良く、長い手足とジャンプのかたち、高さ、幅、流れの全てで黄金レベルの才能があります。そこへネイサンは主に技術力で羽生に立ち向かいます。いくら黄金レベルの羽生でも人間ですから不調や怪我があります。ネイサンはジャンプの安定感があり、ジャンプ時の力の使い方に長けています。高度ジャンプを何本も跳び、最高難度構成で競うわけですから、いくら羽生の加点や演技・構成点が多くても技術点で爆点を叩き出すネイサンには敵いません。案の定、不調時に羽生はネイサンに負けてしまいます。ネイサンが若手であれば羽生の勝利も望めましたが、ネイサンもシニアの大会で経験値を得ていますから、フィギュアスケート歴が長くなれば、ある程度は審判員から評価されます。ネイサンに対抗し、羽生は高度な4回転ジャンプや4回転アクセルに挑戦するわけです。おそらくネイサンが現れなければ、羽生は高度ジャンプ、まして4回転アクセルに(試合で)挑戦することはなかったでしょう。練習で成功率の低い高度ジャンプを試合でできるわけがありません。オリンピックシーズンは怪我にも苦しみました。

 羽生と宇野や鍵山の違いは何だろうと考えた時、もちろんトップになりたい、良い色のメダルを手にしたい、表彰台の真ん中に立ちたいという思いはあることは前提で話を進めます。宇野はかつて、いつも2番手は嫌なんだ、という発言があり、全日本選手権2019で羽生を破り優勝した時は、まさか優勝できるとは思ってもなかった、と(驚いた表情で)試合後のインタビューに答えていました。北京五輪2022前の全日本選手権2021で羽生が優勝したこともあり、鍵山の前にはネイサン、羽生、宇野がいて、宇野の前にはネイサンと羽生がいて、羽生の前にはネイサンがいます。そこの捉え方で勝負に差がついたように思います。宇野と鍵山は、仮に勝てなかったとしても今できることを頑張ろうとする思いがあり、その結果を受け入れる心がありました。だから、たとえ準優勝でも3位や4位であっても納得できる心がありました。羽生は、金メダル以外は考えられなかった。金メダル以外は全て負け、敗者であると。だから、無謀な賭けをするわけです。ネイサンに勝つためには(当時)世界初の4回転アクセルを成功させるしかないと。おそらく羽生の(その当時の)可能な演技構成であれば、表彰台は狙えたでしょう、銀や銅メダルを獲得できたでしょう。しかし、彼のプライドは許さなかった。羽生が世界で活躍することで日本のフィギュアスケートはさらに盛り上がりました。ネイサンが現れるまで羽生はほぼ敵なし状態でしたから、その当時は世界最高点を更新し、羽生を超えるのは羽生だけだ、絶対王者とかね。羽生は唯一無二の存在とかね。散々、ファンもメディアも盛り上げたわけです。そして、五輪三連覇を期待する声もあり、本人(羽生)も五輪三連覇して有終の美を飾り、競技生活を終えたかったと思いますよ。彼のプライドは許さない、周囲から期待されている、絶対に優勝したいと、奇跡を信じて4回転アクセルに賭けるしかなかったのでしょう。宇野や鍵山は、ネイサンと向き合いました。しかし、羽生はネイサンと向き合わず逃避しました。なぜ無謀な挑戦をして彼は4位で終わったのか。羽生はネイサンと向き合わなかった、いや向き合えなかった。

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